[特集]ひとみしょう 作 『世界が変わるとき』第8話 (ユカイノベル)

バナー広告高収入風俗求人ユカイネット
高収入風俗求人ユカイネットの初心者講座高収入風俗のおしごとQ&A
おしごと図鑑スカウト登録キャンペーン
店舗様はこちら

ひとみしょう 作 『世界が変わるとき』第8話

―――それは、一人の女性の成長物語―――
ユカイノベル

世界が変わるとき ~自分に自信がなかったわたしが自信を持つまで~

ひとみしょう 作

第8話「体温で会話しあうお仕事」

横浜

吉原でのソープのお仕事は、わたしの想像をはるかに超えて大変だった。

もう以前のように、簡単に稼げることはなかった。

ソープの高級店には、一定のお金持ちのお客さんがついていると思っていたけれど、景気が悪いからなのか、やっぱり20歳そこそこの若い女子に人気が集まるのか、わたしがすすきので出会った占い師のおじいちゃんの「男の淋しさ」という言葉を真に受けたからなのか、とにかく稼ぐのに苦労した。

わたしは自分が働いているお店のことを悪く言いたくないので、お店の名誉のために補足しておこう。

わたしが在籍しているお店は、ソープ嬢が稼げないとなると、それを理由にソープ嬢をクビにするお店ではなかった。

二輪車(つまり女のコ2人とお客さんひとりで楽しむプレイ)における女のコ同士の組み合わせをお店のほうでうまく考えてくれて、稼げない女のコが少しでも稼げるように店として工夫してくれた。入店して働いてくれている女のコに、少しでも稼いでもらいたいというお店側の気持ちは、非常にあつかった。

きっと多くのお店がこういうことをやってくれるのではないかと思う。

今、風俗の求人サイトで風俗バイトを探そうとしている女のコには、ぜひ知っておいてもらいたいのだけど、お店にしてみたら「女のコには稼いでもらってなんぼ」というのがこの業界の大原則なのだ。

だから優良店は、とにかく女のコに諭吉をたくさんつかんでもらえるよう、ありとあらゆる努力をしてくれる。

わたしが以前に比べてソープで稼げなくなっていたのは、店側の事情によるものではなく、もしかするとヒロシがいなくなってしまって、わたしの気持ちが知らず知らずのうちに落ち込んでしまっていたからかもしれない。

ヒロシ……風俗業界に入るきっかけをつくってくれた男……友だち以上恋人未満というややこしい関係のまま、わたしの風俗業界での頑張りを影で応援してくれていた男……わたしと結婚したがっている男……わたしは今でも彼のことが好きなのかどうなのか、自分でもよくわからない男……。

あるいは、すすきのの占い師から聞かされた「淋しさ」とか「今この瞬間を一緒に生きている歓び」という言葉を、わたしがむずかしく解釈しようとしているからかもしれない。

実際にわたしは、「淋しさ」とか「今この瞬間を一緒に生きている歓び」という言葉を、むずかしく解釈していたように思う。

たとえば、わたしが風俗業界1~2年目くらいのときは、お客さんにサービスの延長を言われたら、素直に喜んだだけだった。今日も諭吉をいっぱい持って帰ることができる! という喜びだけがそこにあった。目の前にいるお客さんが少々かっこよかったら、お金をいただきながらわたしもエッチで気持ちよくなれる! こんな最高の仕事ってちょっとほかにないよね……なんて思っていただけだった。

でも今では、その喜びがなくはないけれど、それ以上に、

「お客さんが延長を求めたということは、きっとわたしともっとエッチなことを楽しみたいと思っているということなのだろう。でもこのお客さんはわたしのどこを好いてくれているのだろう?」

とか

「このお客さんは、わたしにどんな種類の淋しさを癒してもらいたいと思っているのだろう」

というようなことを考えるようになった。

もちろん相変わらずお客さんはわたしのことを女としてチヤホヤしてくれた。だからわたしは若い頃のように、お客さんと純粋にエッチなことを楽しむことだってできた。

でも風俗初心者の時代を経て、いわゆるベテランになってしまえば、誰だってこういうことを考えてしまうのかもしれない。

なぜならどんな仕事だって、諭吉のパワーが効くのは最初の頃だけだからだ。あとはカラダを動かしながら、頭が自然と動くようになってしまうものだ。

あるいはわたしが29歳にして吉原で稼ぐことが大変なことに思えてきたのは、さっきも言ったけれど、ヒロシがわたしのもとから消えたことが最大の原因かもしれなかった。

これまで伴走してくれていたパートナーが消えたことで、わたしが自分の仕事に不安を覚えるようになったのかもしれない。

稼いだお金をヒロシのために使おう……友だち以上恋人未満のヒロシに対して、なぜかわたしは、少なからずこう思っていたけれど、すでにお金を使って喜んでくれる相手がいない今、わたしは誰のために稼げばいいのか、迷っているのかもしれなかった。

自分がなにを考えているのか、自分でもよくわからなかった。貯金が500万円になるまで吉原で頑張りたい……この思いは自分でもよくわかっていたけれど、それ以外のことは、自分ではよくわからなかった。

だからときにわたしは病みそうになった。自分がなんのために、なにをしているのか? 仕事の流れなんてよくわかっているソープでの接客中にすら、わたしはこういうことを考えなくてはならなかった。

そして、そういうわたしを救ってくれたのは、すすきのの占い師のおじいちゃんが言っていた「今この瞬間を一緒に生きている歓び」という言葉にほかならなかった。

占い師がわたしにハダカのお仕事を勧めてきた理由が、ソープで働いているとよく理解できた。

お客さんって、エッチなことをソープ嬢と楽しむという目的だけでお店にやってこない。いきなり洋服を脱いで黙々とエッチなことをするだけのお客さんなんて、ほぼいない。

たいていのお客さんは、ちょっと恥ずかしそうにお茶を飲んだりタバコを吸ったりして、まず女のコと会話をする。その会話は男の自慢話だけ……ということも少ない。

自慢話を始めたお客さんの話をよく聞いていると、そのうち仕事や家庭の愚痴に変わって、そのうちわたしのことが好きというようなニュアンスの会話に変わって、最後には「おれ、淋しいんだよね」とストレートに言わないまでも、どこかしら生きているうちに自然に抱え込んでしまった淋しさが出てくるものなのだ。

お客さんが差し出してきた淋しさを、わたしはこの口でこの手でこの体温で受け止め続けた。そうやって常連客をゼロから5人に増やした。5人に増えるまで半年かかったけど。

ハダカの仕事ほど、「今この瞬間を一緒に生きている歓び」が理解できる。

どのお客さんがかっこよくて、どのお客さんがダサいとか、どのお客さんはお金持ちでどのお客さんは貧乏とか、そういうことが一切関係なく思える仕事……それがハダカのお仕事だ。

ハダカになってしまえば、社会的な地位も、学歴も住んでいる場所も、どんな車に乗っているのかも、すべて関係なくなる。

四肢と性器と自分の体温を素直に相手に晒すしかない。

だから「人より優れているところ」も「人より劣っているところ」も関係なくなる。

みんなちがって、みんないい。

こういう思いしかなくなる。あるいはそう思わないと接客ができない(お客さんは、接客されていることを純粋に楽しめない。――これがハダカのお仕事。

お互いの体温で、お互いの体温を確認しあい、生きているということを確認しあう場所――それがソープランドの真髄……わたしがエッチなことが嫌いじゃないからこう思えるのかもしれない。あるいはお客さんに恵まれているからこういうことが言えるのかもしれない。イヤなお客さんに当たったら、イヤだもんね。

でも、お客さんのステキなところもイヤなところも、それをそのまま体温で受け止めているうちに、ホントにイヤなお客さんっていないという事実を知るというのも、きっと「ソープ嬢あるある」だろうとわたしは思うのだ。

こんな理屈を言うわたしに「ベートーヴェンの第九みたいなことを言うね」と、あるお客さんはわたしに言った。

「第九?」クラシック音楽のことなんか、なにひとつ知らないわたしは思わず聞き返した。お客さんはわたしに言った。

「そう、第九。毎年、年末になると、『1万人の第九』をやるでしょ? あの曲ってさ、フロイデ! って歌い出すんだよ。フロイデって歓喜という意味なんだけど、みんなで生きている歓びを感じようぜ! って歌なんだ」

「フロイデ?」わたしは怪訝そうに言った。

「そう、フロイデ。1万人で歌っていたら、そこには1万とおりの歓びがあるわけじゃない。年末に1万人で歌うってことは、1万人それぞれが自分の『今年のストーリー』を持っているってことでしょ? 1万とおりの人生を、みんなそれぞれに歌って、それをお互いに受け止めようぜ! 聴きあおうぜ! 歌おうぜってことさ。君も今年の年末の1万人の第九に出てみたら? ネットで出演者を募集しているからさ」

もちろんわたしは1万人の第九に出たいとは思わなかったから、応募しなかった。

でもこのお客さんの言わんとするところは、なんとなく理解できた。

わたしは多い日には5人くらいのお客さんと接する。少ない日は2人くらいのお客さんと接している。

生理休暇とかもあるから、年間にすると、延べ600人くらいのお客さんを相手にしている。

1万人にははるかに及ばない数字だけれど、ハダカになってお互いの体温で会話しあっているお仕事、これが風俗嬢のお仕事なのだろう。

そして気持ちいいことや、お互いの体温をとおして、お客さんとわたしは「今この瞬間を一緒に生きている歓び」を交換しあっているのだろう。

フロイデ!

こんな感じで、若い頃に比べたら少々見劣りのするお給料になっていたけれど、吉原で着実に貯金を増やしていった。そして貯金が450万円を少し超えたところで、ほっとした。

500万円が見える。このまま何事もなければ来月には貯金が500万円になる!

こう思うと、来月からなにをしようかなという考えが、かなり濃い色彩を帯びてきた。だってもう風俗のお仕事を辞めても全然OKなのだ。風俗のお仕事を辞めて、昼職につく準備ができる。誰かと結婚しようと思えば、精神的に余裕を持って結婚相手を選ぶことができるし、手に職をつけようと思えば、精神的にも金銭的にも余裕を持ってそうすることができる。

でも笑っちゃうことに、わたしには、なにをしたいという希望がとくになかった。ネイルのスクールに通ってネイリストになる……わたしはほかの多くの女子と同じくネイルに興味はあったけれど、それはネイルを「してもらう」ことに興味があるわけで、自分が誰かの爪にネイルを施すことには興味がない。

先輩風俗嬢の何人かは、カラーコーディネーターの資格をとったけど、わたしはお洋服やメイクは好きだけど、他人のお洋服やメイクをより良くすることに興味がない。

では結婚は?

ヒロシからは相変わらず、連絡が来なかった。携帯の番号を変えたのか、単にわたしからの連絡に応えたくないのか、彼の電話番号に電話をしてもLINEにメッセージを送っても、なんの反応もなかった。

だから貯金が500万円を少し超えても、わたしはずっと吉原の同じお店でソープ嬢として働き続けた。お店のスタッフのわたしに対する信頼も、常連のお客さんのわたしに対する信頼も、わりと篤いものになっていたから、それはそれでよかった。

働きやすかったし、「今この瞬間を一緒に生きている歓び」を体温をとおしてリアルに交換しあえることは、わたしにとってささやかな幸せになっていた。

相変わらずヒロシのことが気になっていたけれど、わたしはすすきのの占い師さんから連絡先を聞いていなかったから、再び彼にヒロシとのことを占ってもらうことなど不可能だった。

小さく揺れるわたしの心に、明るい未来を教えてくれたのは、フロイデを教えてくれた常連客だった。

2週間に1度わたしを指名してお店にやってくるフロイデのお客さんは、わたしにこう言った。

「君の母性本能は、ほかの女のコのそれとはちがって、かなり癒されるんだよね」

わたしの母性本能……??

すすきののおじいちゃんの占い師さんも、このお客さんもわたしに母性本能がかなりあると言ってくる……どうして? 

彼は続けてこう言った。

「ソープのお仕事を辞めたら、君は保母さんをやればいいよ。それうか 、キャバクラよりもっとカジュアルに働けるスナックでアルバイトすればいいと思う。だって風俗の仕事って永遠に続けるわけではないでしょ? それにスナックってさ、男が子どもみたいな感情を満たす場所だから、君にすごく向いているよ」

スナックねえ……わたしは思わずこう呟いた。時給1,500円で4時間働いて、1日6,000円でしょ? 1ヶ月に20日働いて12万円でしょ……と思ったとき、わたしは「ま、いっか!」と思った。

なぜなら今のわたしには500万円の貯金があるからだった。貯金があれば仕事を選ぶときの選択肢がぐんと広がる。こう思ったとき、わたしは山の頂上に立っている感覚を覚えた。

なんだってやろうと思えばやれる。

それだけの貯金と精神的な余裕がわたしにはある!

ヒロシがわたしのもとに帰って来ない地味な生活のなかで、このことは唯一、わたしにとってグッドニュースだった。

でもだからといって、スナックでバイトしたくはなかった。この年齢から保母さんになるために勉強をしたいとも思えなかった。

フロイデのお客さんが言う「保母さん」とか「スナック」というのは、あくまでもたとえであって、ソープよりもう少しカラダが楽になる「母性本能を男性に提供できるお仕事」がわたしに向いているということだろうと思った。

だからわたしは風俗の求人サイトでソープに代わる仕事を探した。

わたしの母性本能を活かせるお仕事……こういう視点で風俗の求人サイトを眺めると、すごく新鮮だった。

これまでは「女であることを活かせる」とか「たくさん稼げる」とか、そういう視点でしか見てこなかったから、すごく新鮮だった。それにすでに貯金があるから、これまで興味が沸かなかった仕事にだって興味を示している自分がいることに、歓びを感じた。

結局わたしが選んだ仕事はチャットレディだった。

今やチャットのお仕事はかなり激戦だということは、何人かの女のコから聞いて知っていた。

パソコンのカメラの前でハダカになってエッチなことをしないと、男性客が指名してこないとか、プロフィールの書き方を工夫しないと、そもそも男性客とお話すらできないということを、わたしは聞き知っていた。

でもわたしは、こんなにお客さんたちがわたしの母性本能を認め、欲しがっているのであれば、激戦のチャットの世界でも、それなりに稼げるだろうと踏んだ。

キャバクラやスナック、それにハダカの風俗のお仕事と、基本は同じだろうと考えた。

ソープのようにカラダを使う仕事ではなく、自分が好きな時間に好きなようにできるチャットの仕事をしながら、今後の昼職について調べたり考えたりする時間をつくればいい。

だからわたしはフロイデのお客さんに、このことを正直に話した。

するとフロイデのお客さんは驚く様子もなくこう言った。

「うん、君のこの判断でいいと思う。君は母性本能を男に差し出しながら、男に好かれ、男によって自分の人生が拓けてゆく宿命にあるとぼくは思う。だから君がもし本当に昼間の仕事を求めているのであれば、たとえば生命保険の営業のお仕事をすれば稼げると思う。ぼくは今、生保の会社に勤務しているんだけど、生保レディの仕事って学歴とか関係ないし、毎月入社できるから、ホントに君が昼間の仕事を求めているのであれば、大手の生保の仕事をすればいいと思う。

でもとりあえず、ソープを辞めて少し人生の休息をしつつ、体制を立て直したいのであれば、チャットの仕事がいいと思う」

わたしはにっこりと微笑んで、お客さんに「フロイデ!」と言った。

彼もわたしに「フロイデ!」と言ってにっこりと笑った。

そしてわたしたちは、ベッドの上で体温の交換ごっこをした。

今この瞬間を一緒に生きている歓びを交換しあっていれば、人生において大切なことはすべてお客さんが教えてくれる。

 

 

『世界が変わるとき』第9話に続く―――

『世界が変わるとき』第7話に戻る―――

2016/10/26