[特集]ひとみしょう 作 『世界が変わるとき』第7話(ユカイノベル)

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ひとみしょう 作 『世界が変わるとき』第7話

―――それは、一人の女性の成長物語―――
ユカイノベル

世界が変わるとき ~自分に自信がなかったわたしが自信を持つまで~

ひとみしょう 作

第7話「一緒に生きている歓び」

すすきの

北海道のすすきのに着くと、空は曇っていた。

ヒロシとわたしは、まず広めのワンルームのウィークリーマンションを借りて、スマホで風俗の求人を探した。

わたしはすでに28歳になっていた。ヒロシも28歳になっていた。

28歳でも応募可能な風俗の求人はあるのかな……わたしは不安だったけれど、求人はいくらでもあった。でも、わたしの気持ちは晴れなかった。

風俗業界に入って、それなりにわたしはうまくやってきた。借金を完済することができたし、友だちなのか彼氏なのか自分でもよくわからないけれど、ヒロシという伴走者を得て、安心して稼ぐことができた。

ヒロシはわたしのことが大好きだから、本当は、わたしが風俗で働くことをよく思っていなかったはず……。でも風俗の仕事を辞めろとも言ってこなかった。彼なりになにかを我慢してくれているおかげで、わたしは楽しく働くことができた。

貯金だって200万円くらいできた。

お客さんに恵まれていたのか、わたしが他人よりエッチなのか……理由は自分でもよくわからないけれど、働くことが楽しかった

でもわたしは28歳だ。高校の同級生の多くは結婚している歳だ。

あるいは看護師や保母さんなど、資格を取得して仕事をしている年齢だ。

わたしは風俗の仕事が好きだけれど、友だちのことを思えば、そろそろ風俗業界を卒業して、昼間の仕事に戻るべき時期にさしかかっているのかもしれない。

ときどきわたしのスマホにやってくる友だちからのメッセージは、わたしの胸にこんな思いを芽生えさせた。

風俗業界から足を洗うべき?

女を武器にもっと稼ぎたいという気持ちを優先させるべき?

風俗の求人サイトを眺めながら、わたしの気持ちは揺れていた。

昼間の仕事に就くと、おそらく毎月手取りで20万円あればいいほうだろうと思う。ほんの何年か前、風俗業界に入る前のわたしがそうだったから、なんとなくこう思う。

手取り20万円あるかないかの生活には戻りたくない。せめて貯金が500万円あれば、手取り20万円の生活に戻ってもいいように思うけれど、貯金が200万円しかないときに戻ってしまえば、またつまらない生活になるだろう。だって200万円なんて、その気になればあっという間に使い切ってしまう金額だ。

でもわたしだって同級生のように、ラブラブな彼氏をつくって結婚して幸せに暮らしたい……手に職をつけて、結婚しても働きたい。

むずかしい顔でこんなことを考えていたら、ヒロシが「優子ちゃんどうしたの?」と尋ねた。

「どうしたのって……北海道のすすきのに来たんだもん。やる仕事はひとつしかないじゃん。ニュークラの仕事を風俗の求人サイトで選んでるの!」

わたしはとっさにヒロシにこう答えていた。

すすきのでは、関東でいうキャバクラのことを「ニュークラ」、セクキャバのことを「キャバクラ」と呼んでいる。わたしはすすきのニュークラで一度働いてみたかった。

こういうとき、生来の楽天的な性格がものを言う。

ま、いっか! ニュークラで働いて貯金を500万円に増やしてから、あとの人生のことを考えればいいや!

どこの街で、どんな風俗のお店で働いてきても、それなりに稼げたんだから、キャバクラニュークラのメッカとも言われているすすきのでも、きっとそれなりに稼げるだろう。

私が面接を受けたニュークラは、女のわたしでも惚れ惚れするようなモデル並みにスタイルのいい女子がたくさん在籍していた。すすきの界隈ではかなり有名な大手キャバクラニュークラチェーン店だった。

わたしは面接のとき、体験入店を断ろうと思った。わたしより若く、モデル並みにスタイルがよく、アイドル並みにかわいい女子たちの中で働いても、きっとわたしは稼げないだろうと思ったからだった。

でもわたしはこのニュークラ店で働くことにした。

これまでそれなりにいろんな風俗のお店で稼いできたのだ。いつまで風俗の業界にいるのかわからないけれど、最後まで高級店で勝負しよう。

ニュークラにおける、面接から体験入店までの流れは、全国のキャバクラとだいたい同じみたいで、お店の雰囲気やお給料の簡単な説明があって、仕事で着るドレスやメイクや送りに関する簡単な説明があって、わたしが体験入店しますと言えば、その日の営業から接客させてくれて、営業が終了したら日払いでお給料をくれる……ざっとこんな感じ。

体験入店の日、わたしは何人かのキャストのヘルプで、いくつかの席をまわった。

最後にわたしがついたお客さんは、フリーのお客さんで、そのお客さんにだけ、わたしひとりでついた。

80歳のおじいちゃんの席で、その人は、自分の職業を占い師だと言った。

わたしは最初、その男性客のことを、文学者かマスコミのOBの人だと見ていた。

長年にわたって培われてきたであろう教養とプライドが、その表情ににじみ出ていたからだった。

でも彼は、夜の10時くらいに少々ほろ酔いで来店して、わたしが席につくなり、占い師だと言った。

わたしも先輩キャバ嬢の席でかなり無理をしてお酒を飲んでいたから、ほろ酔いだった。

だから酔いの勢いで「わたしのことを占ってくださいよ」と言った。

彼の答えは、とても理知的だった。

「あのね、たとえば魚屋さんがこの店に来て、女のコに『お魚ください』と言われて、魚をあげる人っていないでしょう?」

つまり、占いは商売でやっているのだから無料で占わないよ、占ってほしいのならお金を払ってよね、ということを彼は言っていた。

でも、そこで引き下がったらつまらないキャバ嬢になってしまうことを、わたしはこれまでの風俗のお仕事から学んでいた。

「ねえ! お願い! ちょっとだけでいいから手相を見てよ」なんてことを言いながら、お客さんに手を触らせてあげるとか、そういうことをするから嬢は稼げるのだ。

あるいは「わたし、じつはちょっとエッチなんだけど、わたしは前世でもエッチなお仕事をしてたのか、占い師さんってわかるんですかぁ」とか、そういう会話をするから存在価値があるのだ。

そんなこんなで、占いをめぐってお客さんと押し問答をしていたら、わたしたちはかなりお酒が進んで、仲良くなった。そしてラストソングがお店に流れ出した頃、彼は言った。

「明日も君を指名しにこのお店に来ますよ。君はいろんな意味で才能に溢れている子だから、わたしは君に興味がある。

あのね、今この瞬間を一緒に生きている歓び。この歓びを、君は仕事を通してわたしにも、おそらくは他のお客さんにも提供していると思う。そしてそういう歓びを提供できる人はすごく少ないんだ。

今この瞬間を一緒に生きている歓び。この言葉は覚えておくといい」

「今この瞬間を一緒に生きている歓び?」わたしは不思議そうに答えた。言っていることの意味がわからなかった。彼は言った。

「そう、今この瞬間を一緒に生きている歓び。この言葉が意味するところを考えておくといい。詳しくはまた明日話をしてあげるよ」

彼はこう言い残して、ラストソングが終わって照明が明るくなった店内をぐるっと見渡して帰って行った。

翌日、彼が言ったとおり、彼はお店にやってきた。わたしのことを気に入ってくれたのか、約束を守る律儀なおじいちゃんなのか……いずれにせよ、わたしにとってはありがたいことだった。

フリーのお客さんから指名をいただくことで、わたしたちは平和に高額のお給料を得ることができる。先輩の常連客を奪ってしまうと、キャスト同士で喧嘩になって、当然のようにそのお店では稼げなくなる。

この日、占い師のお客さんはわたしに言った。

「君、これまでハダカになる風俗のお仕事をたくさんしてきましたよね」

わたしはこの質問になんて答えたらいいのか、一瞬迷った。はい、ソープもデリヘルもいろいろハダカのお仕事をしていましたと言ってしまえば、「だったら、おれともエッチしようよ、君、いくら?」なんて言われかねないと思ったからだ。

でもわたしは正直に答えた。「君、いくら?」なんて言われたら5万円とでも10万とでも言っておこう。

「わたしはソープとかデリヘルとかで働いていました」わたしは正直に答えた。

彼は言った。「やっぱりね。顔の相がハダカのお仕事をしてきましたと言っている。ところで、昨日わたしが言った今この瞬間を一緒に生きている歓びという言葉の意味、わかった? ちゃんと考えてきた?」

わたしは「そんなことを考える時間なんてありませんでした。仕事が終わったら、まっすぐにおうちに帰って、同棲している男の子とエッチして寝ました」と答えようと思ったけれど、もちろんそうは答えなかった。

「すみません、考えてもわかりませんでした」と答えた。

彼は「今この瞬間を一緒に生きている歓び」という言葉の意味を教えてくれた。その概要をかいつまんで言えば、以下のようなことだった。

ニュークラを含めた風俗店に、男性客はなにを求めてやってくるのか?

女のコに淋しさを処理してもらいたいと思ってやってくる。

風俗店に来ない男も、風俗で遊ぶ男も、そこで働く女のコも、風俗では働かない女のコも、人はみんな等しく淋しさを持っている。

人は生まれ落ちた瞬間から淋しさを抱えているから、誰だって淋しさを持っている。

その淋しさを正直に見せあって、今この瞬間を一緒に生きている歓びに変えたい……こういうことを男は風俗嬢に願うわけだけど、男が持つ淋しさを、今この瞬間を一緒に生きている歓びに変えることができる女のコとそうではない女のコがいる。

当然、今この瞬間を一緒に生きている歓びに変えることができる女のコは、安全にたくさんのお金を稼げる。

淋しさを淋しさのまま見せあうと、夜の闇に足をとられて、危険な目にあうし、当然のように稼げない。

こんなややこしいことを、占い師の80歳のおじいちゃんはわたしに説明してくれた。彼の話が終わったとき、わたしは言った。

「で、わたしは男の人が持つ淋しさを、今この瞬間を一緒に生きている歓びに変えることができている女のコだと……つまり稼げる女のコってこと?」

彼は頷いた。そして言った。

「そう、君は稼げる女のコだよ。すすきのにはたくさんの女のコがいるけど、君はその中でもかなり稼げる素質を持っている。でもお金のことばかりを考えていたのでは、いずれ風俗業界で稼げなくなる。風俗業界で稼げなくなれば、自然と業界から消えていくけれど、昼間の仕事に就いても稼げない。

今この瞬間を一緒に生きている歓びを分かち合えるというのは、女のコにとっては母性本能をたくさん持っていることを意味するんだよ。

母性本能……つまり男にとって今この瞬間を一緒に生きている歓びというのは、同性の親友と酒を酌み交わすことでもありつつ、実際には女のコが持つおおいなる母性本能に触れた瞬間なんだ」

母性本能? わたしはおじいちゃんの占い師が言っていることが理解できなかったけれど、昼間の仕事という言葉を聞いたとき、ラッキーだと思った。風俗の仕事からいかにして昼職に転職するかが、今のわたしにとって最大の課題なのだから。

「昼職に移りたいとわたしは思っているんですけど……どうすればいいのか、わからなくて」わたしは小さな声でそう言った。彼の答えはシンプルだった。

「わたしの話を聞いてなかったの? あのね、君が持つ母性本能を素直に表に出せば、それが昼間の職業になる」

わたしは「?」という表情で彼の顔を見つめた。もっと具体的に言ってくれないとわからない。

たとえば、わたしが知っている、風俗嬢から昼職に移った女のコは、たいてい資格をとっていた。カラーコーディネートのスクールに通ってカラーコーディネーターの資格を取得するとか、ネイルの学校に通ってネイリストになったとか、そういう女のコを、わたしはこれまで見てきた。

だからわたしは占い師のおじいちゃんに言った。

「わたしもなにか資格をとって、手に職……的な仕事に就くといいのでしょうか」彼はものすごく真面目な顔で答えた。

「昼間の仕事に転職することを頭で考えていても、君は転職できないでしょう。吉原に行きなさい。占い師として2つ予言しましょう。君は吉原に行くと運が開けます。君はすすきののニュークラで働くより、ハダカの歓楽街に行くともっと稼げます。君は貯金を500万円にしたいのでしょう?」

500万円の貯金! わたしは占い師にこんなことを、ひと言も言ったことがないのに、彼はなぜわたしが「500万円貯金するまで風俗で頑張る」と考えていることを知っているのだろう? わたしの脳内をどうやって見抜いたのだろう?

わたしは驚いて、「はい、500万円の貯金をつくるまで、風俗で頑張りたいと思っています」と答えた。

彼は続けた。「2つ目は……君は同棲している彼氏がいるね」

わたしは目を丸くして「はい」と答えてしまった。なぜ彼はわたしが同棲していることを知っているのだろう?

占い師のおじいちゃんは、ものすごく余裕の表情で「やっぱりね」と言った。そして続けた。

「その彼、あなたのことが大好きで、あなたと結婚したいと思っていますよ。でもね、今週、彼は同棲している部屋から消えていなくなりますよ。いやあ、心配には及ばない。そのうち、あなたのもとに帰ってくるから」

ヒロシが消える?

わたしは一瞬たじろいだ。友だち以上恋人未満のような関係の彼に、きっとわたしは自分でもわからないくらいのごく少量の恋心を抱いているのかもしれない、でないと、ヒロシが消えると聞いて、わたしはたじろがないもん……。

でも占い師に「なぜヒロシは消えるのですか?」とは聞かなかった。占いに「なぜ」も「どうして」もないということくらい、わたしは知っている。

その週の金曜日、わたしがすすきののニュークラでバイトを終えて同棲している部屋に戻ると、ヒロシはいなかった。

そしてヒロシの家財道具がすべてなくなっていた。彼はすすきので頑張って送りドライバーの仕事を毎日していたから、ちょっとしたものをたくさん持っていた。

アニメのフィギュアとか、電動歯ブラシとか、わたしがいないときに抱いて寝ていた抱き枕とか、そういうものがすべてなくなっていた。

この日から1ヶ月くらい毎日、ヒロシのスマホに連絡をしたけれど、ヒロシはそれに応えることはなかった。LINEのメッセージも既読にならなかった。

まあ、しかたない。

占い師のおじいちゃんが予言したとおり、ヒロシはわたしのもとから姿を消した。

でもきっと、これも予言のとおり、いつかヒロシはわたしのもとに戻ってくるのだろう。

こう思うと、ヒロシのものがすべてなくなっている部屋を眺めながら、気持ちが落ち着いた。わたしは、自分ではそのつもりがないけど、本当はヒロシのことが好きなのかもしれない。

でもま、いっか!

占い師のおじいちゃんの予言のとおり、わたしは吉原に行こう。

吉原に行って、貯金を500万円にしよう。500万円貯まると、誰かと結婚だってしやすくなるだろうし、なにか資格をとるためにスクールにだって通えるだろうし、なにかと事態が好転するだろう。

そんなわけで、わたしは、すすきののウィークリーマンションを引き払った。

今この瞬間を一緒に生きている歓び……母性本能……この2つの言葉を胸に、わたしは部屋の鍵を封筒に入れて、不動産屋に送った。

封筒を郵便ポストに入れたとき、わたしは少し自分に自信が持てたように思った。

ハダカになってお客さんと一緒に汗をかいているとき……今この瞬間を一緒に生きている歓びを交換しあっている瞬間。

ニュークラでしつこくわたしのことを口説いてくる泥酔客に「少し酔いをさましたら?」と言いながら、冷たいおしぼりを首に当ててあげる瞬間……そしてお客さんが一瞬子どものような表情をして「ありがとう」と言ったとき……今この瞬間を一緒に生きている歓び。

これができる風俗嬢は少ない。ホントのことだ。

君にはそれができると、80歳のおじいちゃんに言われたこと……生きている歓び!

誰だって、ひとりぼっちじゃないんだよ、誰かとつながっているし、自分にその気がなくても、誰かと温かな気持ちを共有しながら生きているんだよ……こういう気持ちを素直に出しあえる風俗のお仕事をしている自分に、初めて誇りを持てた瞬間だった。

わたしは29歳になろうとしていた。

 

 

『世界が変わるとき』第8話に続く―――

『世界が変わるとき』第6話に戻る―――

2016/10/12
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